「すみませんでした」
地方のローカル線のボックスシート。向かいに座った
背広姿の高齢の男性が終点間際で、そう言いました。
私は、なんで突然、そんなことを言うのかわからなくて
「え?なんですか?」と聞きました。
「(ワンカップ飲んで)お酒くさくてすみませんでした」
「いいえ、全然。いいんですよ。(終点の)米沢まで行かれるのですか?」
「この後、仙台へ出て、八戸へ行くんです。この列車、ずっと使ってたんで
(懐かしくて)ついお酒を飲んでしまいました。
青森、仙台、新潟と住んできて…
姉が八戸にいるんですけど、施設に入るというのでこれから行くんです。
もう、最期だから…」
「そうでしたか。遠いですね。どうぞお気を付けて」
そんな言葉しかかけられませんでした。
戦中生まれであろうこの男性、戦後の復興期から高度経済成長期と、
どんな人生を歩んでこられたのでしょうか。
ご自身もすでに老後に入っているのに、東北なまりが抜けません。
お姉さんとは、どのくらい会っていなかったのでしょうか。
どんな気持ちで、列車に揺られていたのでしょうか。
「すみませんでした」は、私が言いたいせりふです。
私の方から早く声をかけて、お話し聞いてあげたら良かったですね。
すみませんでした。